18歳でイラクで武装勢力の人質に。猛バッシングを受けた経験から、10代の挫折した若者の支援へ(後編)

こんにちは!SN校内新聞編集部です。

通信制高校、定時制高校の生徒を支援している認定NPO法人D×P(ディーピー)。前編では理事長の今井紀明さんに事業内容やD×Pのビジョンについて伺いました。

じつは今井さんは2004年、イラクで武装勢力の人質になった経験のある方。日本人3人が拘束された事件を覚えている人もいらっしゃるかもしれません。そう、そのときの高校生が今井さんだったのです。

今井さんは無事解放されましたが、帰国後に猛烈なバッシングを受け、長い間、辛い時期を過ごしたそうです。

そこからなぜ、若者の支援をするようになったのでしょうか?

イラクで人質に——帰国後に受けた「自己責任」のバッシング

——イラクで人質になった経験は、D×Pの活動をはじめる動機になっていますか?

今井 やはり一番大きな理由ですね。人質から解放されて帰国すると、僕を待っていたのは猛烈なバッシングでした。「自己責任だ」と言われて、突然怒鳴られたり、後ろから殴られたり……。話しかけられるのが怖くなって、対人恐怖症になってしまったんです。それから4、5年間ひきこもりました。

——批判の手紙がたくさん来たそうですね。

はい。家に送られてきた手紙をすべて読み直して、なぜかパソコンで打ち直してみたんですが、なんと5万字もありました。手紙を書いた人のことを理解したくなって、住所を見て会いに行ったり、手紙を出したりもしましたよ。

——へええ! その行動は、立ち直るきっかけになりましたか……?

うーん、どうでしょうね。これによって立ち直ることができた、というわけじゃないと思います。そのあと僕は大分県にあるAPU(立命館アジア太平洋大学)に通ったのですが、そのときもまだ完全に完治してはいませんでしたから。ただ、このときバッシングを受けた経験はD×Pの立ち上げにつながっています。

通信制に通っている生徒には、いじめを受けたとか、親との関係がよくないといった、様々な挫折を抱えている子がいます。10代のときに存在を否定された経験によって、立ち直れなくなっているんですね。でも、人生は長い。そのままではもったいないと、自分の経験から考えたのがD×Pの活動の原点です。

ザンビアより日本の子どもたちの方がまずい!?

——APUに通いはじめたのはいつからですか?

21歳のときです。高校の担任だった先生が、ひきこもったまま2年くらい何もしていない僕を心配して、願書を書いてくれたんです。それは本当にありがたかったですね。

——まさに人生を変えてくれた先生ですね! 大学に通っている間にD×Pの活動を思いついたのですか?

大学卒業の直前にアフリカのザンビアに行って、子どもたちに英語を教える活動をしたときですね。ザンビアはエイズの感染率が20%もある国です。ところが話を聞いてみると、子どもたちは将来にすごく希望を持っている。

その様子をみて「日本の子どもたちの方がまずいんじゃないか?」という感覚を持ちました。日本は生活は豊かなのに、若者が希望を持てない社会だと感じていましたから。

それから通信制の生徒の現状を知り、何とかしたい……いや、何とかしなきゃ、何とかするなら自分だろう、と思って動き出しました。

「単位」として認められることの意義

——ちょっとお金の話も伺いたいのですが……、金銭面での苦労はありませんでしたか? 教育分野って、あんまり儲からないイメージがあるのですが。

最初の3年間は全部自分のお金をつぎ込みましたね。これくらいの借金なら返せるだろう、と思って。おかげさまでいまは大丈夫です(笑)。

——事業は最初から順調だったんですか?

いやいや、はじめは辛いことも多かったですよ。ある学校で授業が単位に認定される予定だったのに、最初の数回以外は認められなかったり……。やっぱり単位にならないと、生徒が授業に来ないんですよ。1年間日程を押さえてもらっていたコンポーザー(過去の経験を伝え、 高校生と対話するボランティア)にも申し訳なかったですし、あれは辛かったですね。

ただ、その学校も幸い次の年からは単位認定され、「総合的な学習の時間」を担当させてもらえることになりました。それからは校長会でも紹介されたり、現場の先生の口コミでつながっていったりと、どんどん輪が広がっていった感じです。

もっと多くの生徒を支援したい!

——これからどのように支援を広げていきたいですか?

2025年までには、関東と関西、それに政令指定都市など6地域で展開する計画です。それぐらいの基盤ができれば、支援できる子もかなり増えるな、と思います。

とくに東京からはすでに多くのオファーをいただいているのですが、東京の学校は規模が大きいこともあり、人手不足と資金不足からこれまで展開できずにいて。今年中には、東京に支社という形で足場をつくりたいと思っています。

——このように事業を拡大していくためには、やはり寄付が欠かせないわけですね。

そうですね。公立の通信・定時制高校の支援にこだわりたいので、寄付のお願いは必要です。公立に通う生徒の方が、深刻な状態の子が多いですから。

——寄付は個人でもできますか?

はい、ホームページから簡単にできます! たとえば、月1000円の支援を10人にしていただくと、1クラスで1回分の授業を実施できるんです。一人でも多くの方に、僕たちの活動を知っていただきたいですね。

<寄付について詳しくはこちら

——最後に、生徒が自分の未来に希望を持てる社会だと思うためには、何が一番必要だと思いますか?

やはりD×Pの支援で重視している、「人とのつながり」と「成功体験」だと思います。

公式サイトより>

人間関係が築けていれば、挫折しても周りの人のサポートによっていつでもやり直すことができる。就労支援に力を入れているのも、就職できたことが成功体験になって自信がつき、将来が開けるからです。

そう信じて、これからも支援を広げていきたいと思います。

——ありがとうございました!

【D×Pへの寄付はこちら】 *一般的な寄付と、月1000円からのマンスリーサポーターが選べます!

 

文=田中 圭太郎