こんにちは! SN校内新聞編集部です。
通信・定時制の高校で社会人による授業を実施し、生徒の就労まで支援する——そんな活動の輪を年々広げている団体が、大阪をベースに活動する認定NPO法人D×P(ディーピー)です。
D×Pのビジョンは、たとえ10代で挫折しても「ひとりひとりの若者が自分の未来に希望を持てる社会」をつくること。多くのボランティア、企業、個人サポーターが活動を支えています。
いつもは関西にいらっしゃるという理事長の今井紀明さんが上京していると聞き、若者の支援に取り組む思いを聞いてきました!
D×Pは通信制や定時制の高校で授業をしながら、生徒たちを支援する認定NPO法人。2012年に大阪で立ち上がり、年々活動を広げています。現在は大阪のほか、京都、兵庫、滋賀、和歌山、北海道のあわせて17校で、およそ1000人の生徒と関わっています。
ユニークなのは、NPOとしては日本で唯一、通信・定時制高校の正規のカリキュラムのなかで授業を行っていること。さらに、授業以外にも支援プログラムを用意して、生徒の就労支援まで目指しているのです。
——なぜ通信制高校を支援の主な対象にしているのですか?
今井 通信制というと「働きながら通う場所」というイメージがあるかもしれませんが、それは昔の話なんです。いまは通信制高校に通う6割の生徒が高校の中退経験者で、4割が中学時代に不登校を経験しているといいます。さまざまな「しんどさ」を抱えた生徒が集まっているんですね。
さらにいま、通信制高校は4割を超える生徒が進学や就職もしないまま卒業する、という問題を抱えています。多くの生徒が無業者やニートになって社会に放り出されている。この若者たちを支援したいと思って活動しています。
<公式サイトより>
ーー通信制に通う生徒の数は増えているのですか?
ええ。少子化のなか全日制高校が大幅に生徒数を減らすなか通信制高校だけは横ばいを保っていて、全国で約18万人が通っています。だからこそ、支援の必要性を感じているんです。
——D×Pでは生徒をどのように支援しているのですか?
「人とのつながりをつくること」と「成功体験をつくること」の2つをとおして、自己受容感を高めてもらうことに力を入れています。この2つを満たすためのプログラムを、授業をとおして提供しています。
——ほうほう。具体的には?
私たちは「総合的な学習の時間」を使って、数ヶ月、1年間といった長い期間授業をします。ポイントは、この授業に出席すれば生徒は単位として認められるということですね。SENSEI NOTEのユーザーである先生方ならわかってくださると思うのですが、この単位認定されるところに行き着くまでが大変でした(笑)。
——実際、どのような授業をしているんですか?
授業では「コンポーザー」と呼ばれる「過去の経験を伝え、 高校生と対話するボランティア」が、それぞれクラスを担当します。生徒とコンポーザーの比率が3対1になるようにして、まずはオトナと関わることで高校生が「過去を受け入れ、未来を描ける」よう、人とのつながりをつくる。これが基盤のプログラム「クレッシェンド」です。このプログラムだけで、高校生っておもしろいくらい成長するんですよ。
ほかにも、授業が終わったあとも継続的な「つながり」をつくっていけるよう、学校横断で写真部やアート部などの部活をしています。また、学校によっては、学内で生徒の居場所となるカフェの運営も行っています。
さらに、インターンやスタディツアーなどの「チャレンジプログラム」によって、大小さまざまな成功体験を積んでいく。そして最終的には就労にもつながるよう、就労支援も行っていきたいと思っています。
——現在、就労支援はどのようにしているのですか?
既存のネットワークでは限界があるので、新たに多くの企業から支援をいただきつつネットワークをつくっています。今後は就労をもっと力を入れていきたいですね。
——なるほど。ところで、コンポーザーって、どんな方々なんですか?
20歳から45歳くらいまでの方で、7割以上が社会人です。200人以上の方が登録されていて、なかなか人気なんですよ。とはいえ誰でもなれるものではなく、コンポーザーの条件として、我々は「D×P基本3姿勢」への共感を掲げています。
——「D×P基本3姿勢」とは?
「否定しない」「様々なバックグラウンドから学ぶ」「年上・年下から学ぶ」。この3点を守って、生徒と接してもらいます。
——コンポーザーと生徒は、どのようなプロセスで人間関係を作るのですか?
まず、コンポーザーは「高校生の話に耳を傾ける存在」である、というのが大前提です。そのうえで、まずコンポーザーが自分自身の過去のつらい経験を語ってもらったり、自分の仕事の話をしてもらいます。生徒に人生や進路について考えてもらうきっかけ作りですね。そして、生徒が将来やりたいと思うことを話し合っていきます。
——大人が生徒と関わることで、どんな効果がありますか?
コンポーザーの中にも、不登校やひきこもりなど、大変な経験をした人が多くいます。そんなさま様々なバックグラウンドを持つ人と対話することで、大人に対するハードルを下げたり、「自分もできるかもしれないな」と感じてもらえると思っています。
授業後のアンケートでは、7割の生徒が「卒業後に何かやってみたい」と答えています。授業前にそう答えた生徒は、わずか3割しかいなかったのに、です。
<公式サイトより>
——すごい!!!
この変化を見た学校の先生からは、「子どもたちの可能性を信じていいんだと思いました」とあらためて言ってもらえて……うれしかったですね。
——すべての学校で、同じような支援をしているのですか?
いえ、授業後の取り組みや「チャレンジプログラム」は着手できていない学校もあります。スタッフ不足もありますし、資金面の問題もあって。……というのも、公立1校にコンポーザー20人が参加して、年に10回授業をした場合、学校からいくらもらえると思いますか?
——うーん。低く見積もって、30万円くらいでしょうか?
10回の授業全体で1万円というケースもあるんですよ。
——1万円ですか! 交通費にもならないですね……。
自治体にお金がないので仕方ないです。そのため、かかる費用はほとんど寄付でまかなっています。ありがたいことに寄付は毎年増えていて、2016年度は4200万円になりました。
——「日本には寄付文化がない」と言われますが、すごい額ですね。きっと、D×Pさんの活動に共感されるからでしょう。
おかげさまでスポンサー企業は30社になり、月1000円や2000円の個人サポーターも300人を超えました。もちろん、毎月の寄付だけではなく、自由な金額で寄付していただく方も増えています。でも、もっと多くの学校からのオファーに応えるためには、さらに寄付を広げていく必要があります。
「挫折した若者を支援したい」と活動する今井さんですが、じつは10代で大きな挫折を経験し、長い間引きこもりとなった経験があります。次回は今井さんがD×Pの活動を始めたきっかけを伺います。
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構成=田中 圭太郎